『あぶない法哲学』住吉雅美[読書メモ]

第一章では、“We will sue you.”が一般的となっているアメリカの訴訟社会が日本にも波及している例をあげて、法哲学における危険性の問題提起としている。

第二章
国家=暴力団説
法律は、自ら犯罪だと宣言していることを合法化できる。
それを“主権”と言い、主権が成立したとき、社会ははじめて国家になるとされる。
人間の尊厳という概念について
①尊厳という価値が独立して存在
② 人間が尊厳をもって行動すること
それ自体が曖昧なタームでは、このように少なくとも二通りの理解が可能。そのいずれかを用いるかで正反対の答えが示される。
ex.尊厳死
①では個人の主体性よりも守られるべき価値(身体にとって生きることが最優先)を損ねるため“絶対にしてはいけない”ことになる。
②では人間は他人に干渉されずに自分の理性で考え、自分の意思で行為選択することこそが最優先されるので認められることになる。
ほかにも「売春」「クローン人間」
多様化と自然法論による画一的価値観は対立しやすい。
→法実証主義に流れやすい

第三章では自然法論による画一的価値観で陥りやすい正義問題に踏み込む
正義を絶対として主張する人は他を認めず攻撃的・暴力的になる傾向がある。
ex.桃太郎 etc…
正義によって価値に応じた分配、不平等状態の原状回復、交換を成立させる等価などが実行されることにより、人類の平等が具現されることになる
ex、ジョン・ロールズ、ロバート・ノージック

第四章は、違法義務について
なぜ法律に従っているのか?
思考のない遵法のたちの悪さ

第五章
ハーム・リダクション:禁止による逆効果、取り締まりにかかるコストや刑罰など、総合的な危害や害悪をできるだけ少なくするため、従来犯罪とされてきた事柄を公認したうえでコントロールする方法

第六章
功利主義について
最大数の最大幸福

第八章
孤独死を取り上げ、ジョン・ロックの自己所有論を引っ張り出して「身体を所有する」ことについて考察を広げていく。そして「私の身体は私そのもの」であることを理由に「自由意志で自分の臓器を売ること」へと踏み込んでいく。
さらに無政府主義(アナーキズム)に触れ、アナルコ・キャピタリズムを詳解する。
もし政府がなくなったらどんな社会になるか、のシミュレーション。

第一〇章
平等について
万人が納得する完全な平等はありえない!?
アファマーティブ・アクション

第一一章
自由の裁量範囲について
ミル「人は他者に危害を加えない限りは自己の判断で何をやってもよい」(危害原理)
エホバの証人の輸血拒否の例を引用して、信者の輸血拒否の自由を認めた高裁判決を紹介(最高裁も支持)
→愚行権:自分のみを傷つける権利

人間には違和感を抱き、疑い、反抗する能力がある。それを思い起こさせてくれるのが法哲学なのである。