「熱風」2021年10月号[読後メモ]

特集「資本主義のゆくえ」

山口周さん(独立研究者、著作家、パブリックスピーカー、ライプニッツ代表)へのインタビュー記事。

山口さんが著書のなかでも触れているユニバーサル・ベーシックインカムの導入について、人間が周囲や環境から押し付けられている”呪い”を解き放って「本質的な意味で社会に価値を生み出」すための鍵となるのがベーシック・インカムだから、とする。

その理由は、「人が生きていくには金融資本(生活保護など)だけじゃなく、能力とかスキルみたいな人的資本と、評判とか信用という社会資本がいる」から。

また、フィンランドやスウェーデンの救済システムを引用し、「うまくいかなくなった人にまず人的資本を作るための時間資本を渡すという考え方と、時間の猶予を作るために必要な生活費を支給、そのあいだに人的資本を鍛え、職業を選び直すことによって自分の金融資本を作るという流れであることが重要だ、と加える。

格差や、それによって生じる断絶を解消するために安易なバラ撒きは効果なしとの意見をよく耳にするが、だったらどうするのかという代案として、こうしたビジョンをもとにした段階的なプログラムの提供があってようやく自立の道へと軌道を修正できる能力を身に付けることになる、という気付きがあるのではないだろうか。

特に人的資本を鍛えるプログラムは、社会全体で取り組む必要があるはずだ。

日本人と戦後70年

青木理さんの連載。今回は、ポリティカル・ライターの平河エリさんがゲストで、グーグルから独立してITコンサルタントを営む視点で、日本の最近の政治的傾向に関する持論を展開する。

そのなかで、ネット上の言説の変化に触れ、「インターネットも、黎明期は男性のギーク的(マニアックな技術や知識偏重)というか、日本では「2ちゃんねる」のようなものから利用者が広がって、(中略)つまりは男性的な、あるいは男子校的な、ホモソーシャルな空間の色彩が強かった」ことがネットの論調を作っていたと指摘。

それがスマホの登場で偏重が解消(希薄化)されたことで「一般の市民社会と相似形の公共空間に近づきつつあ」ると分析している。

ネットは政治的傾向に大きな影響を与えると言われて久しく、並行してそれは中立的な、サイレント・マジョリティの意見を反映しやすくなるといった理想論が語られ、期待した時期もあったが、そうした理想には近づくことなく、アメリカのSNSによる政治的傾向を見るまでもなく、ネットの影響はむしろマイナスでしかないとさえ思える今日このごろ。

こうした状況を打破するためにも、リテラシーの高いネット世代こそが、アタリマエのようにネットを使って理想を語り検証しつ具現化できる世の中を作ることの必要性を痛感させられるインタビューだった。