“哲学”を“情熱”の軸に置いたファッションブランドの佇まいの記録〜映画「うつろいの時をまとう」【試写】

matohu(まとふ)というファッションブランドの成り立ちからファッションショーへのアプローチ、そして独自の表現チャネルを探り当てるまでに至る過程を記録したドキュメンタリー。

『うつろいの時をまとう』©GROUP GENDAI FILMS CO., LTD.

ファッションは“感性”が優先されるジャンルであるという先入観がある。

しかし実業としての服飾づくりは分業で、そこにはルールあるいは論理が必要となり、そうでなければたやすく空中分解してしまうものでもあったりするはずだ。

matohuのデザイナー、堀畑裕之と関口真希子の“哲学”を軸に服飾デザインをとらえ直そうとする姿勢は、まさに共同作業芸術としてのそれを破端なく成立させるための合理的で無理のない解決法であり、20世に発展してきた服飾デザインの世界がカリスマの索引力によってかろうじて保ってきたバランスの“ほつれ”を補う効果的な方法論の実証実験がなされているようすを、このフィルムは追っているのだということに気付く。

ひとつのファッションブランドによってコンセプトを明らかにしながらファッションショーまでの歩みを記録する手法は”情熱大陸”的であると感じもしたが、ラストの手前でそれまで結論すなわち本作の”ゴール”であると思わせてきたショー自体の否定に至って、これは壮大なアンチテーゼを観る者たちに突きつける matohuの“哲学”そのものを映像化しようとした作品だったことに思考が至るはずだ。

服飾デザインの世界を扱ったコミック「ファッション!!」(はるな檸檬)を読んで、この業界のショーの位置付けやどれだけの労力が必要かなどをぼんやりとではあるが把握していたこともあって、本作の実務ドキュメント部分も含めて多くの刺激を与えてくれる内容でもあった。

そして、おそらくより抽象化していくであろうmatohuのコンセプチュアル・アートの部分を、手仕事というわかりやすさで済まされないようにするためにも、映像(イメージ・ヴィデオではなく)でしっかりと語ることの意義は全うできたと感じる。

それはまた、続編を重ねることによって、文化発信を考え直すべき岐路に立つ日本ファッション界のエポックメイキングな作品になりうることも意味しているはずだ。

matohuのデザイナー、関口真希子(写真=左)と堀畑裕之

2023年3月25日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

監督:三宅流  撮影:加藤孝信  整音・音響効果:高木創  音楽:渋谷牧人  プロデューサー:藤田功一
出演:堀畑裕之(matohu)、関口真希子(matohu)、赤木明登、津村禮次郎、大高翔ほか

【2022年/日本/ 96分/ カラー/DCP/5.1ch/バリアフリー上映対応】
協力:一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構、PEACH  助成:日本芸術文化振興会 
製作・配給:グループ現代