「海を渡る夢」は先人たちの希望と失望を巻き込んで吹く柔らかな風のようだった

2023年1月27日に、東京・赤坂のカナダ大使館オスカー・ピーターソンシアターで、シンディ望月の展覧会「海を渡る夢 Transpacific Dreams」開催を記念したトーク・イヴェントが行なわれた。

シンディ望月について

シンディ望月は日系カナダ人4世の「マルチメディアを用いたインスタレーションやオーディオ作品、パフォーマンスやアニメーション作品で知られる」アーティスト。

「歴史的な資料を入念にリサーチし、また当時者たちに会ってオーラルヒストリーを収集し」た内容を自身の作品に投影していくという作風。

「海を渡る夢」について

舞台は第二次世界大戦前のカナダ・ブリティッシュ・コロンビア州。

そこでニシン漁と加工に従事した日系カナダ人が、戦争による社会構造の変化に巻き込まれ、どのような影響を受けたのかを扱った『潮と月:ニシンの都』(2022年)と、フレイザーバレー周辺の苺農家の歩みを追った『秋の苺』(2021年)の2作品を展示するのが、「海を渡る夢」と題された今回の展覧会。

トーク・ショー概要

トーク・ショーは、1月27日から5月2日までの展覧会会期の初日、作者であるカナダ・バンクーバー在住のシンディ望月氏を迎えて開催された。 

「物語を紡ぐということ」をテーマに、アーティストの小林エリカと対談、豊田市美術館(愛知県)の学芸員・能勢陽子がファシリテーターを務めた。

以下はトーク・ショーのメモ。

1/27 シンディ望 展覧会「海を渡る夢」トークショー

カナダ大使館オスカー・ピーターソン シアターにて

シンディ望月氏は日系4世

初期の移民のようす→口伝されていたものを集めて作品に

カナダにとって移民は重要施策

 ↓  2025年に向けて政府が新たな移民施策を発表(予定)

多文化社会を生む源流にもなっている

“物語をつむぐ”ということ=Spinning Tale

メモリーワーク→歴史を振り返るためのリサーチ

祖父が苺農園を営んでいた

1942年に収容所設置→収容 それ以前の写真は逸失

なぜなら収容所に入れられた人たちはカメラを取り上げられ、アルバムも家に置いてきたから

*作品に写真を用いることはない

 ↓

体験者たちの記憶に新たな光を当てる作業でもあった

2023年の現在、収容所体験者も少なくなっている

この調査聞き取りは貴重なものになった

話したがらない体験→アートにすることで見えるようにできる

小林エリカ

「光の子ども」“放射能”とエネルギー問題のつながりを読み解くアート・コミック

1896年生まれの祖父、レントゲン技師

 ↑レントゲンを発見した年

父親が1929年生まれアンネ・フランクと同じ

「親愛なるキティたちへ」

“物語”によっていかに過去を写し出すか=2人の共通性

ホー・ツー・エンの作品にも通じるものがある

“物語”=フィクションにすることの危険性を指摘

小さなフィクションの積み重ね

戦地の男性の視点ではなく日常の視線で描く

War Time Experience.

些細なことを描くことの大切さ

漬けものから見える風景

Q. アニメを用いた理由は?

A. 写真がなかったこと、子どものころの記憶だったこと。

それを再現するのにアニメが良いと思った。

Q.作品に対して取材対象者の反応は?

A. コロナ禍のため試写やツアーはできなかったが、個別に見た人からは「まさにこのとおりの出来事だった」と。

まとめ

まず第一印象として、カナダの日系移民に対する認識の低さに気付かされたこと、第二次世界大戦によって初期の”歴史”が失われていること、記憶の期限が迫っていること──が残っている。

以前からヨーロッパ系移民の存在は知っていたのだけれど、日本人こそカナダの日系移民のことを知らなければならないはずなのに、その情報が遮断されていたことを残念に思い、それだけにシンディ望脈の今回の展覧会は貴重な機会になったと感じる。

柔らかなタッチのアニメーションによる表現は、移民たちの過酷な体験を過剰に盛ることを避け、移住を志した彼らの心中にあったはずの夢や憧れも含めて再構築しようとする優しさを包括することに成功している。

それがあったからこそ、収容所体験といった思い出すことにためらわれることも併せて、伝えなければならない重厚なその歴史の全貌が、時を経て現在の私たちに共有される価値を生んでいるのだと言えるだろう。

#海を渡る夢

#カナダ大使館