映画「THE FOOLS 愚か者たちの歌」は1980年代の反骨を現在にトランスフォームしたプロテスト・ドキュメンタリーだった

映画は、THE FOOLSのヴォーカル、伊藤耕が刑務所から出所するところから始まる。2013年のことだ。

4年の懲役を終えてシャバへ出てきた彼は、「最近の覚醒剤はインチキだと中国人が言っていたけど本当だね。覚醒剤をやっていないほうが気分がいい」とうそぶく。

そして、盟友であるギタリストの川田良へ電話をかけるのだ。

再結成したTHE FOOLSはツアーを実施、ファンが「おかえり!」と迎える。

1970年代後半から頭角を現わしていた彼らは、多くの熱狂的なファンに支えられていた。メンバーも変遷がありながら、THE FOOLSという“共同体”を維持するために、いろいろな犠牲を払いながらバンドを続けてきた。

1980年の結成当時、フランス文学が好きで、セリーヌをよく読んでいたという証言があった。ルイ=フェルディナン・セリーヌは『夜の果てへの旅』『なしくずしの死』などで知られ、第二次大戦後には国家反逆罪で祖国を追われている。

1970年代後半から80年代にかけて、ロック・シーンはパンク‏‏/ニュー・ウェイヴが席巻する。反体制を前面に押し出した歌詞が特徴で、それ以前のプロテスト・ミュージックを代表するフォークソングの軟弱性を真正面から否定するような過激なパフォーマンスで、世界的なムーヴメントを引き起こすことになった。

ボクがパンクロックの代表格であるセックス・ピストルズを初めて聴いたのは高校生のころ。彼らのファースト・アルバム『勝手にしやがれ‼』だったから1977年のことだ。ザ・ローリング・ストーンズの不躾さとは違った無垢な暴力性が、モラトリアムな思春期の少年に“後ろめたさ”というインパクトを与えた。それ以来、気になる存在であり続けている。

ニュー・ウェイヴのムーブメントは日本にも波及する。1970年代前半から活動していた頭脳警察、その後を追うように出てきたアナーキー、ザ・スターリンなどが牽引し、コマーシャリズムに背を向けた硬派なサウンドとパフォーマンスで、ロックのカウンター・カルチャーをシッカリと形づくっていた。

THE FOOLSもまた、そうした初期のムーブメントのなかで生まれたしとつのバンドだった。

1985年にザ・ブルーハーツを結成した甲本ヒロトは、対バンしたことのあるTHE FOOLSについて「ホンモノ……、いや、違うな。ホントのことをやっているバンド。それがヤバいんだけど、カッコいいなと思っていた」と語っていたのが印象的だった。

リハーサルはキメてたのに、本番になるとヘロヘロのことも多いバンドだったという。そのヘロヘロになる原因によって、THE FOOLSの活動は何度も危機を迎えることになる。

「練習の成果を発表するバンドではなかった」という評価は、THE FOOLSの生き様をそのまま言い表わしている表現だと思った。

当時を振り返る映像には懐かしいライブハウスの風景も多く、1980年代後半にロック系の雑誌の仕事に係わっていたボクとしては懐かしくもあった。また、大駱駝鑑とのエピソードやJAGATARAとの関係性など、1980〜90年代のアンダーグラウンド・シーンを知る貴重な証言があったのも嬉しい収穫。

それにしても、10代からTHE FOOLSを“追いかけていた”という高橋慎一監督だけに、当時のライヴ映像がストーリーとリンクしているところは流石で圧巻。映像もかなりキレイで、見ごたえがある。

後半はいろいろな不協和音が絡み合って、THE FOOLSの活動がままならなくなっていくようすをそのまま描いていく。

なにより伊藤耕がたびたび収監され、そのたびにバンドを維持して彼が戻ってくる場所を用意しているメンバーの姿に胸が熱くなる。

終盤に冒頭の伊藤耕出所のシーンへ戻るのだが、再結成したTHE FOOLSがツアーをするも、その途中で伊藤耕がまたまた逮捕されてしまう。

この逮捕の顛末が終盤のひとつの大きな流れを作っているのだけれど、ボクは伊藤耕不在のバンドを守るメンバーから漏れた「川田良はいつも貧乏くじをひかされている」という言葉が印象的だった。確かに、伊藤耕がいないステージでの川田良の演奏のほうにグッと来るシーンがあった。

その川田良も2014年1月に58歳で逝去。その年の7月、伊藤耕に地裁の無罪判決が出るも、二審で有罪。上告は棄却されまたまたまた収監されてしまうのだ。

メンバーとファンは彼の出所を待つことになるが、あと40日というところで事件が起きて、その件についてはまだ係争中ということだが、映画は伊藤耕が復活してマイクを握ったライヴの映像で終わる。

社会に適合しづらい人たちが、音楽という拠り所を得て自分の生き方をつかんでいく“多様性”を描いた映画──と言えればカッコいいのかもしれないけれど、どうやらそうでもない。迷って、当たって、砕けてもまたやり直そうとする、愚直な生き方をなぞるように描いている、共感できるかどうかが大きく分かれる映画だというのが率直な感想だ。

先述のように、“気になる存在”でありながら、距離を置いて付き合おうとしてきたジャンルの音楽の映画だ。なのに、苦笑しつつも引き込まれ、なぜ引き込まれるのかがやはりいまでも理解できたとは言えない。

そういう不思議な空気感のあった時代の、バンドと生き様の映画ということなのだろう。

THE FOOLS 愚か者たちの歌
2023年1月13日(金)よりロードショー!