「ファスト映画」に5億円を賠償させても誰も得をしない

ファスト映画を巡る損害賠償訴訟で
請求通り計5億円の賠償を命じる
判決が出ました。

ファスト映画とは

映画作品を無断で約10分ほどに編集し
インターネット上にアップロードしたもの。

損害賠償訴訟について

ファスト映画のアップロードによって
損害を受けたとする東宝、東映、松竹など
映画制作会社13社が著作権法違反罪で
すでに有罪判決を付けている男女3人に
5億円の損害賠償を求めて東京地裁に
提訴したもの。

男女3人については、2021年に
「アイアムアヒーロー」など
5作品の編集した動画を公開。

これに対して宮城県警に逮捕され、
仙台地裁で有罪判決を受けています。

5億円の内容

東京地方裁判所の杉浦征樹裁判長によれば、
5億円という損害賠償額については、
オンラインでの映画作品のレンタル料金が
400円より少ないことはなく、ファスト映画が
約10分とはいえ編集前の映画を把握できる
内容であることを考えると同等と見なせるとして、
損害額が1再生あたり200円を基準に、
ファスト映画の再生回数を掛け合わせると
被害総額は20億円以上になり、
原告の5億円の請求は妥当と判断した
という考え方を示した、ということです。

ファスト映画の損害額についての司法判断は
初めてで、これが今後の判例になるのでしょう。

この訴訟の問題点

ファスト映画制作者界隈に対して、
この判決はかなりの抑止力となることが
想像されます。

しかし、5億円の損害賠償額は現実的ではなく、
被害額の回収が目的ではなかったとしても、
今後も「やり逃げ」が減るかどうかは
なかなか見通せない気がします。

原告側としては被告のYouTubeからの収益を
差し押さえるなど、“水源”まで手を入れる
ことがなければ、ごめんなさい知らなかったから
で終わらされてしまうわけです。

ファスト映画のアップロード対策を含めた
簡単な防止策を講じることも、この著作権法違反罪
についてはかなり重要になっているのでは
ないかと思うのです。

さらに、最近ではすっかりCMでも
おなじみとなっている違法ダウンロード問題に
からめて考えてみると、「観ても捕まるよ」
という意識が浸透することのほうが
この問題の本質的な解決につながるはずです。

今回の判決、5億円のインパクトはありましたが、
“観る側のモラル”について触れる論調が少なかったのは
この問題に対してまだまだ意識が低い表われではないか
と思った次第。

また、 #モニフラ で #小幡和輝 氏が
知り合いには配給元からオファーを受けて
ダイジェスト版をつくって報酬を得ている
人がいるという情報もありました。

これはすなわち、この問題の根源が
「無断で」というところにあることを
示しているわけです。

配給元や制作者側にはもちろんお金の
問題もあるけれど、作品に対しての
想いがあるはずです。

ファスト映画として制作した動画も
配給元や制作者側のチェックを受ければ、
それが公開された場合の作品に対する
影響を含めて、いろいろな調整が
必要かどうかを判断することができ、
作品に対するよりポジティヴなサポートにも
なりえるわけです。

そうした制作者側への敬意や手間を惜しんで
「勝手に」動画を編集する行為は
クリエイティヴィティでもなんでもなく、
文脈を読み取れない低レベルのお遊びに
すぎません。

ステマとファスト映画

配給元からオファーを受けてダイジェスト版を
つくり報酬を得ること、というのはステマ
ではないのか、と考える人もいるかもしれません。

というか、それだけの手順を踏んだ
ダイジェスト版であれば、ステルスではなく、
堂々とコマーシャル作品として公開して
いいのだと思います。

コマーシャル作品のクリエイティヴィティを
論じるのであれば、それはすでにファスト映画の
域を脱していることにもなるでしょう。