「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」はアップデートタイミングのアラートとして使おう【読書メモ】

ジェンダー平等にはまず自分たちの発信から見直さなければならない。
メディア業界の問題は、ニュースをどのような位置づけで報じるのか、意思決定の場面に近づくほど女性の力が低くなるのは顕著。そのため、ジェンダーバイアスがかかった表現が当たり前のように使われている。

女性記者が増えるにつれて、無意識の偏見が指摘されるようになった。
しかし、体系的な知識を共有するための基礎的なテキストはなかった。
これが本書上梓の動機となっている。

新聞労連ジェンダー表現ガイドブック編集チームとは

ジェンダー問題に関する記事を書く・扱うと言う当事者でありながら、自身がジェンダー問題に対面していった新聞労連の女性たち(新聞労連が進めるクオータ制「特別中央執行委員制度」で選ばれた人たち)が、2020年9月にそれぞれの現場の現状を語りがあったことがきっかけで発足した組織。

社会には、性的少数者に対する差別的な言動が溢れている。こうした場面に遭遇した時、できることがあると本書は以下の対策を上げている。
まず「その発言を差別的だ」と指摘するのが1つ。「難しければ、話題を変えたり、同調して笑わなかったり、その言動を肯定しないだけでも構いません。日ごろから性的少数者に関する差別用語を使わないのも小さな一歩です」と提案。

本書の後半では、「弱者に寄り添うジェンダー表現から性暴力を伝える現場から」と題した章を立てるなど、性暴力に関連した表現の実例を挙げながら丁寧に解説されている。

その理由を、報道におけるジェンダー表現の中でも課題が多いから、としている。さらに、ジェンダー表現に歪みを生み、それを定着させているいる理由が、突き詰めれば性暴力の語られ方と通底しているからと指摘。「個々人や社会の意識に潜む偏見や差別が現れる場面は様々ですが、究極的なものの1つが性暴力だと考えます」。

特に、性暴力に関する表現については、被害者への人権配慮の観点から「直接的にならない表現方法を模索」という認識が一般的だったが、これがジェンダーを意識した表現にとって大きな障害となっていたとの指摘は大きい。

ジェンダーを意識した表現にするためには性暴力の言説を着手する必要がある、としている点が、この問題について多く語っている理由となっている。
「性暴力に対する見方が変われば、ジェンダーへの偏見に基づいていた表現も変わる」と強い想いが、筆者(たち)にあったことがうかがえる。

まとめ

読了して感じるのは、本書は決してジェンダー表現に関する“マニュアル書”ではなかったということ。

つまり、これに従えば大丈夫という“安全牌”のための知識を得る本ではないということである。

折に触れて本書を読み返すことで、自分のなかのジェンダー表現に関するアップデートを行っていくことが、表現者として求められる良識なのではないかと考えさせるものがあった。