「表現の不自由展」問題とはなんだったのか?

2019年下半期のエンタテインメント業界で大いに注目されていたのが「表現の不自由展」で勃発した事件でした。

といっても、どんなことが起きて、どんな影響があったのかは、半年を過ぎるころにはもう記憶が薄れてしまっていることも多いでしょう。

そこで、この問題について、まとめておきたいと思います。

「表現の不自由展・その後」とは?

「表現の不自由展・その後」とは、2019年8月1日から開催された国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展のひとつでした。

あいちトリエンナーレ

2010年から3年ごとに開催されている国内最大規模の国際芸術祭です。国際現代美術展のほか、映像プログラム、パフォーミングアーツ、音楽プログラムなど、様々な表現を横断する、最先端の芸術作品を紹介します。また、まちなかでの作品展示や幅広い層を対象としたラーニングプログラムがあることも大きな特色です。
引用:あいちトリエンナーレとは | あいちトリエンナーレ

表現の不自由展・その後

「表現の不自由展」は、日本における「言論と表現の自由」が脅かされているのではないかという強い危機意識から、組織的検閲や忖度によって表現の機会を奪われてしまった作品を集め、2015年に開催された展覧会。「慰安婦」問題、天皇と戦争、植民地支配、憲法9条、政権批判など、近年公共の文化施設で「タブー」とされがちなテーマの作品が、当時いかにして「排除」されたのか、実際に展示不許可になった理由とともに展示した。今回は、「表現の不自由展」で扱った作品の「その後」に加え、2015年以降、新たに公立美術館などで展示不許可になった作品を、同様に不許可になった理由とともに展示する。
表現の不自由展・その後

この企画展では23作品が展示されましたが、開催期間途中である開催から3日という短さで中止に追い込まれ、その原因に脅迫Faxなどがあったことから、ニュースとして大々的に取り上げられることになりました。

なにが中止の原因だったのか?

実行委員会は、安全上・危機管理上のリスクを懸念して「表現の不自由展・その後」の中止を決定しました。

開催しているイベントを途中で中止させる決定は、かなり重いものです。その理由として挙げられているのは、以下のとおり。

実在した宗教家や実在する弁護士の名を借りての県職員の殺害予告や爆破予告までされるという事態になった。さらには一宮市や知立市の幼稚園など無関係な愛知県内の自治体も爆破予告や殺害予告が相次いだ。中には「サリンとガソリンをまき散らす高性能な爆弾を2783個しかけた」というメールや、「夏休みで子供達も来館するんやろ。FAX届き次第大至急撤去しろや!!さもなくば、うちらネットワーク民がガソリン携行缶持って館へおじゃますんで」というFAXなど、同年に起きた京都アニメーション放火事件(携行缶で持ち込んだガソリンによる放火事件だった)を思わせるものもあった。
表現の不自由展・その後とは (ヒョウゲンノフジユウテンソノゴとは) 単語記事 – ニコニコ大百科

なにがそうさせたのか?

“近年公共の文化施設で「タブー」とされがちなテーマ”を扱った展示ということで、ある程度の反対意見は予想されていたと思います。

特に批判を受けた展示は、以下の4件と言われています。

  1. キム・ソギョン/キム・ウンソン「平和の少女像」
  2. 大浦信行「遠近を抱えて(4点組)」(昭和天皇の写真を元にコラージュ的に制作された作品)
  3. 中垣克久「時代(とき)の肖像ー絶滅危惧種 idiot JAPONICA 円墳ー」(外壁に憲法9条尊重、靖国神社参拝批判、安倍政権の右傾化への警鐘などの言葉が貼り付けられている)
  4. Chim↑Pom「気合い100連発」

脅迫は、どの展示に対するものであるかを明示してはいないようです。

大きく影響したのは、「特定の政治的意図の下で作為的に選定された特定の政治的価値に沿った作品、反日プロパガンダ作品だ」と看做して「これらを表現の自由等の名の下に一般的な芸術作品同然として、公金を使った美術祭で扱うのは間違いである」という趣旨の非難でした。

この論旨が大きくなっていったことにより、抗議の矛先はあいちトリエンナーレ実行委員会から愛知県庁や名古屋市役所へと移行していきます。

そして、このターゲット変更が、中止判断に大きく影響したものと思われます。

政争の具へ

テーマが政治的なタブーを扱ったものだけあって、政治家からもこの騒動への参入がありました。

以下は、「表現の不自由展・その後」 中止の波紋 – NHK クローズアップ現代+ からの抜粋です。

名古屋市 河村たかし市長
「10億円ぐらい全体で税金使ってますけど、そんなとこでこんなことやるということは、本当に私の心も踏みにじられましたわ。」

日本維新の会 松井一郎代表
「税金を投入してやるべき展示会ではなかったのではないかと思います。慰安婦の像とか日本人をさげすみ陥れる、そのような展示はふさわしくないのではないか。」

愛知県 大村秀章知事
「“税金でやるからこれをやっちゃいけないんだ”というのは私はまったく真逆だと思う。行政、国、県、市、公権力を持ったところだからこそ、表現の自由は保障されなければならない。」

茅ヶ崎市 岸宏司副市長
「市が後援をするということに関しては、今の時代、特に今回の愛知の話もありますので、慎重にそこのところは対応、判断していきたい。」

茅ヶ崎市副市長の発言にもあるように、この問題はほかの自治体のイベントにも飛び火していることを憂慮しなければなりません。

まとめ

一連の報道やネット記事では、あいちトリエンナーレ2019の芸術監督を務めた(務め上げるはずだった?)津田大介氏を非難する宮台真司氏の発言などを取り上げていました。

すでに話題が、「表現の自由について考える」ことから「公費を使って不愉快な思いになることの多いイベントの是非」へとスライドしてしまったので、この問題の論点を整理してもあまり意味がないように感じています。

しかし、確実に、少しでも公費が入るイベントに対して影響を残した問題であることは確かです。

最後に、この発言を貼っておきたいと思います。

憲法学者 武蔵野美術大学 志田陽子教授
「差別的なものであるとか、暴力をあおるようなものであるとか。よほどのものについて無理だという判断、そこにとどめるべきで、政治的な内容に触れているというような、そういう内容に立ち入って、後援するか、しないかを選別することは、憲法の表現の自由の受け皿としての機能を損なうと思う。」
「表現の不自由展・その後」 中止の波紋 – NHK クローズアップ現代+

なお、検証委員会の経過をレポートした江川紹子氏の記事を貼っておきます。

https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20190918-00143212/

データ

あいちトリエンナーレ2019

テーマ
情の時代 Taming Y/Our Passion
会期
2019年8月1日(木)~10月14日(月・祝)[75日間]
会場
[名古屋地区]愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、四間道・円頓寺会場
[豊田地区]豊田市会場(豊田市美術館・豊田市駅周辺)
芸術監督
津田大介(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)
参加アーティスト数
93組 ※30の国と地域から参加
来場者数
675,939人