2019年の音楽著作権事件簿

2020年を迎えたので、昨年は音楽の著作権についてどんな出来事が話題になっていたのかを振り返ってみたいと思います。

まずは、著作権に関する基本的な知識から。

引用:一般社団法人日本音楽著作権協会 JASRAC

著作権と利用手続き

著作物を利用するときには、事前に著作権者から利用許諾を得る(利用手続き)必要があります。

支分権ごとに手続きが必要

著作権(財産権)は複数の支分権で構成されており、例えば演奏するときには演奏権、録音するときには複製権の利用手続きが必要です。また、各支分権について、その利用を行う人が利用手続きします

市販の音源を利用するときの注意点

「創作した人」の権利である著作権と、アーティスト(実演家)・レコード製作者・放送事業者など「伝える人」の権利である著作隣接権は、別の権利であり、利用の方法によっては同時に働くことがあります。
例えば、CDや音楽配信など市販されている音源には、①作詞者・作曲者などの著作権、②アーティスト(実演家)の著作隣接権、③レコード製作者の著作隣接権の3つの権利が含まれており、市販されている音源を利用する場合には3者への利用手続きが必要な場合があります。

許諾を得ることなく利用できる場合

著作権の保護期間(著作権法51条~58条)

著作権は、創作と同時に発生し、原則として著作者が亡くなって70年(死亡年の翌年の1月1日から70年)が経過すると消滅します。保護期間が満了した著作物は、著作権者の許諾なく利用できます。
なお、無名・変名・団体名義の著作物(公表後70年)、映画(公表後70年)などの例外があります。また、第二次世界大戦における連合国民の一部の著作権については 保護期間に関する戦時加算義務 があります。

著作権の制限①:営利を目的としない上演等(著作権法38条)

次の3つの要件を“すべて満たす”場合、著作権者の許諾を得なくても上演・演奏・上映することができます。
①営利を目的としないこと
②聴衆又は観衆から料金を受けないこと
③実演家に報酬が支払われないこと
なお、この規定は、上演・演奏・上映する場合を対象としています。録音・録画やインターネット配信するときには適用されません。

著作権の制限②:私的使用のための複製(著作権法30条)

個人的または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用する目的で、使用する本人がコピーする場合、著作権者の許諾を得ずにコピーすることができます。
ただし、違法にインターネット上にアップロードされたものと知りながら著作物をダウンロードする場合など、私的使用のための複製であっても違法となる場合があります。

著作隣接権とは?

「カラオケの音源を無断で利用して動画を作成し、YouTubeにアップしていた男性が著作権法違反容疑で書類送検」というニュースは、著作権の抜け道を塞がれたというニュアンスで話題になったと記憶しています。
著作隣接権というのは、「著作物などの伝達を行った者に自動的に発生する権利」のことです。
具体的には、「実演家」「レコード製作者」「放送事業者」「有線放送事業者」の四者に与えられます。
このうち、前記の容疑者はカラオケの音源製作を行なって流通させていた原盤権利の所有者である「レコード製作者」に無断で複製して送信(放送)を行なったという、「複製権」「送信可能化権」を犯した嫌疑がかけられたというわけですね。

「歌ってみた」動画の問題点

ニュースがいまひとつピンとこないかもしれないので、もうちょっと具体的な話題を挙げてみましょう。
YouTubeには、カラオケをバックに歌っている動画や、CD音源などに合わせて踊る動画が多数投稿されています。これらは、著作権ではなく、著作隣接権とバッティングする可能性がある、ということなのです。
「恋ダンス」のように原盤権利者から使用の許諾がある一部の場合を除いて、それが完全なオリジナルではないカラオケ(つまり作り直した音源)であっても、著作隣接権が発生していて、その許諾なしには無断使用ができないわけです。

著作隣接権をクリアする方法

どうすれば著作隣接権の侵害で捕まらずに済むのでしょうか。
調べてみた結果は、「権利者の許諾を得る」という、身も蓋もない方法しかなさそうです。
実際には、1曲ごとに問い合わせて、それに対して権利者が対応してくれなければ実現しませんが、とても気の遠くなるような話ですね。
「使いたい音源を耳コピしたりして、音源に似せて実際に楽器演奏や打ち込みを行い、それを独自の音源として利用する方法」という超法規的な方法も提案されていますが、これも万全とは言えないのではないでしょうか。
そもそも、著作権の侵害に問われそうです(笑)。
YouTubeでの無断使用が問題なのは、そこに広告収益が発生しているからと言えます。そうであれば、エージェント機能を確立して、きちんと富の分配をすれば、この問題はある程度、落ち着くのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
ただ、JASRACが問題視されているのがこの「きちんと富の分配がされていない」という部分だったりするわけで、そうするとこの問題の解決は別な意味でまだまだ難しいかもと思ったりするわけです。
音楽利用の必須知識!著作権だけど著作権ではない、著作隣接権とは? | 著作権のネタ帳