中野信子『サイコパス』|脳科学者が“アブナい人”を炙り出すアブナい書

 

気鋭の脳科学者・中野信子による、サイコパスと呼ばれる人を知るための解説書。

 

以下は読中メモ。

・サイコパスは共感性が低い。
・一般人に比べて「恐怖」「悲しみ」を察する能力に欠けている

・なぜ他人の心をもて遊べるのか?
・相手の目つきや表情からその人が置かれている状況を読み取る才能が際立っている

・サイコパス傾向の高い人をあぶり出すのに最後通牒ゲームが有効

講評

脳科学に興味があったこと、自身こそがサイコパスではないかと感じていた中野信子氏のサイコパス論にも興味があったことなどで購入。

文春新書ということでかなり気軽な内容かと思って読み始めたのだけれど、まったくその正反対。

全体の2/3を占める第1章から第3章までは、サイコパスを疑われる人の歴史とその脳内構造などを必要に解説。社会的・学術的にしっかりとしていて、資料的価値は高いものの、読んでいてあまり面白いものではなかったのは残念。

私の本書に求めていた、サイコパスの輪郭を浮かび上がらせる内容は第4章以降。

キーポイントは「良心」で、これを認識する脳の部分の欠落が、一般人とサイコパスの分かれ目になるとは驚きだった。

また、氏がサイコパスを排除すべきものと見るのではなく、100人に1人の個性として捉え、その才能を伸ばすことにも着目していたことは特筆すべきだろう。

社会性の欠落したサイコパスに対する治療方法の研究も進んでいて、その中で特に、認知療法が有効であるというところにも注目。

個人的には本書を読んで、サイコパスというものがほとんどの人が経験する 「反抗期」の延長線上にあるような印象をもった。

そしてそれは確かに、精神医学上の側面で捉えるよりも、多様性のひとつと見て、共存の道を探るほうが得るものが多いのではないだろうか。

ムンドゥルク族やヤノマミ族とクン族の対照的な思考経路は、日本における新人類やゆとり世代といった“異文化”を考えるうえでも参考になりそうだ。