楽天は取次を取り込んでショールーミングを本格化しようとしているらしい件
この記事は、2014年11月にアップして、消えてしまったものの再アップです。
楽天が出版取次「大阪屋」に出資する事情|東京経済ONLINE
記事では、経営再建中の出版取次・大阪屋が臨時総会を開いたというニュースを伝え、「楽天など、6社に対する第三者割当増資の議案」が最終的には……
賛成多数で可決。「楽天は14億円を拠出し(出資比率35.19%)、大阪屋の筆頭株主となる」ことになったことを伝えている。
業界3位の大阪屋がどうして経営再建になったかといえば、すでに伝えられているように「2012年にネット書店最大手のアマゾンが取次を日販に切り替えた」ことが原因と言われている。
これによって東販・日販の2強対その他の図式が鮮明となり、大阪屋は2014年3月期には56億円の債務超過に転落してしまい、本・支社売却や希望退職を募る自体に陥ってしまった。
そこで救いの手を差し伸べたのが楽天。
具体的な絵はこうだ。新たに持ち株会社のOSSを設立。大阪屋はOSSの傘下に入った後、楽天や大手出版、大日本印刷から出資を仰ぐ。一方、反対する書店など既存株主からは株を買い取り、影響力をそぐことになる。講談社など大手出版が増資先に名を連ねたのも、楽天に対する書店側の警戒を薄める狙いがあるとされる。
実はこの先を考えると、大阪屋と取引のある1500書店の協力は必須。カギを握るのは「物流」「IT」だ。
ボクが6年ほど前にある出版社の倉庫会社に取材に行ったときには、大阪屋仕入れのラインだけが別に稼働し、その影響力の大きさを目の当たりにした記憶がある。当時は大阪屋がAmazonの出荷を担っていたのだ。
大阪屋はこの窮地を脱するためにロジティクスすなわち流通会社を設立して対応するようだ。
現状は書店に在庫がない場合、注文から1週間前後かかることもある。在庫量・出荷スピードのある楽天の物流網を活用し、書店のリアルタイム化を進めるもくろみだ。いずれ他大手取次と大阪屋が共同物流に踏み込む構想まであるという。
流通の時間短縮はどの業界も大きな課題になっているが、楽天は大阪屋との協業でこれだけの結果を出せるとすれば、かなりビジネスモデルに変化があることが想像できる。
ほかにも書店に利点はある。一例はネット連動の購入システム。消費者は店頭で欲しい本を見つけ、持ち帰るのが面倒な場合、端末のネット書店から本を買うこともある。本来ならば書店抜きの“ショールーミング”。それを、書店に入った客の購買動向を来店検知アプリなどとの連携で把握し、売れれば書店にも一定の売上高が分配されるよう、レベニューシェアを取り入れる。楽天にとっても、書店は楽天マートの雑貨など本以外の商材も扱えるし、コンビニのように商品受け取りの拠点にもなる。
ショールーミングに関しては、大手書店などが一部実験をしているようだが、目立った成果が上がっていないもよう。小売側からのショールーミングでは「在庫」という問題を解決することができないことが原因だと思われる。それを流通という「川上」から攻めようというのだから、業界にとっても注目せざるを得ない事態になっているのではないだろうか。
出版科学研究所によると、2013年の書籍・雑誌の販売金額は9年連続減。大手出版首脳は「対アマゾンで楽天と利害が一致した」と語る。アマゾンは度重なるキャンペーンで販売奨励金を求めるなど、出版社にシビアな条件を突き付ける。「打倒アマゾン」に執念を燃やす楽天は、アマゾン一強に危機感を持つ出版社側とも、思惑が重なった。
コンシューマーへのサービスを充実させようとするAmazonは、どうしても反対側に対してシビアにならざるをえない。しかし“ひとり勝ち”の状態では押し込まれるばかりだったわけだ。それを打開しようという思惑が、大阪屋と楽天に共通していたというわけだろう。
コンシューマーとしては、潰し合うのではなく、多様性が生まれる市場を協力して作っていってほしいと願うばかりなのだが。