Amazonが出版の未来に与える影響はまだ大きいと言えないかもしれない
この記事は、2014年10月にアッブして、消えてしまったものの再アップです。
「アマゾンの出版エコシステムは完成に向かう」という記事。
要するに……
アマゾンのビジネス・モデルに対して従うのか反抗するのかという業界内でのどたばたの話のようだ。
アマゾンの出版エコシステムは完成に向かう « マガジン航[kɔː]
この記事のテーマはエコシステムなのだけれど、アマゾンが進めている「定額読み放題サービス」や「クラウド出版サービス」について言及したいようだ。
巨人アマゾンがこうした施策を打ち出したことで、旧弊の出版界が追従するのか現状を維持するのかという選択肢に迫られているという構造らしい。
ユーザーは、例えばこんなことについて本を書きたいと思ったことや、こういう本があったら売れるんじゃないの?というアイディアをぶつけてみたり、書いた文章の一部を載せて添削してもらうこともできる。単なる思いつきの段階でも、下書きの状態でも、クラウドで評価してもらえるところがミソ。
ネットでサイトやブログを手軽に書けるようになっていちばん変化したのが、「書き手」というポジションだったと思う。それが経済行為に必ずしもつながらないことから停滞していた部分を、Amazonが突破しようとしているのであれば、画期的なことになるかもしれないという予感はある。
他にも、アマゾンの新サービスのニュースを聞いて、みんなが思い浮かべるものとして、「ワットパッド(Wattpad)」というコミュニティーがある。こちらもアマゾンやKoboが始めるずっと前から自著をアップロードできる自己出版サイト&コミュニティーとして定着し、本国カナダ、アメリカ、イギリスなどの英語圏のみならず、フィリピンやアラブ首長国でも展開され、今や毎月3500万人のユニークアクセスがあり、毎日1000もの新しいコンテンツがアップロードされているという。
ワットパッドはあちこちからベンチャー資金を調達しているし、昨年はマーガレット・アトウッドを巻き込んだ詩歌創作コンテストをやったりと、かなりバラエティーに富んだ自己出版体験ができる。スマホ用のアプリのUIがシンプルなので使い勝手がいいらしく、日常的にアクセスするユーザーも多い。グーテンベルク・プロジェクトの電子書籍アーカイブにもアクセスできて、探せば色々と使えそうなコンテンツに行き当たるあたりが、読み放題サービスとして変容しつつある「スクリブド」を連想させる。
クラウド出版は、結局マネタイズの手段としてクラウド・ファウンディングにたよるしかない部分はあると思う。っていうか、玉石混淆であるのなら、そのキュレーションをする存在が必要になるだろうし、リスクの低い投資で新人を発掘するメリットを求めたいからだ。
これとは別に、(下書きではなく)完成した未刊行作品がアマゾン出版(Amazon Publishing)から出すに値するものかどうかを、アマゾンのアカウントをもつユーザーが評価するコミュニティー、「キンドル・スカウト(Kindle Scout)」も準備中だ(作品の募集はすでに開始)。募集ジャンルはロマンス、ミステリー/スリラー、SF/ファンタジーで、作家の側は作品の一部をサンプルとして公開し、どれを全編読みたいかをユーザー(読者)が投票する、というシステムになっている。
このシステムはかなり具体的なインセンティヴを示している。
既存の出版社が物書きのプロを育て、プロの仕事としての「本」を売るシステムだとしたら、アマゾンはアマチュアの物書きによるパラダイム構築を進めつつあると言うことだ。
ネットの発達自体が、業界から名ばかりのプロを排除して、素人にマーケットを開いたと言えるだろう。しかし、それが良いか悪いかは、現時点ではまだ評価できない。
それよりも、開かれたマーケットを評価するには、そこから有望な素人をプロに育てるシステムが必要になるはずだ。
その意味で、Amazonが「アマチュアの物書きによるパラダイム構築」に固執しているかぎりは、次世代の出版を担うに値したいのではないかと思ってしまうのだが。